空手道型大鑑・坂上隆祥

空手が一般に公開されてわずか半世紀。普及の炎は 東京の大勢をもって、いまや世界の隅々にいたりえ るをしらない。今日の国際化を現実とする空手道は、 もはや日本だけのものではない。そこに必然的に生じ る諸問題に対しては、種々の事情、世評はあるにせよ、 共有意識に基づく普遍性の追求に徹した態度でなけれ はなるまい。此の態度の欠如の事実が今日の空手の現 状となっている。

世界の空手道にとって最も普遍的なもの、大多数の 修業者が求める修業の目的とは何か。言下に、身心に かかわる「武」と「道」の本質と答えざるものはいまい。

普遍的な本質は、すべて「型」に含まれている。型は 古来より先達が心血を注いで創りあげた貴重な遺芳、 空手道の神髄である。修業に付随する護身・精神修養・ 健康増進・スポーツ的要素などはすべて根元的には型の 本義に還元される。

しかし現状は、ともすれば本義から逸れて極端な精 神主義、或は勝負中心の試合偏重にある傾向を否定す ることはできない。年齢的に、或は体力的に現状の傾 向における修業に耐え得る時期はこれを可とするにし ても、修業方法に限界が生じる年齢に達したらどうす るのか。現行の在り方に無意識に従う限り、その延長 上では他の諸要素とも相反する矛盾を避けることはで きない。

解決する第一の鍵は、先達が遺した型の本義を正し く理解し実践する修業だけである。型が空手道の神髄 であるゆえんは、多くの偉人、天才によって歴史的、 地理的条件をとおして追求された武道の極意そのもの が籠められているからで、そこには時間と空間を超え た武道の理論と実践の具現、身心調和のおしえが明確 に示されているからである。

無自覚に型の意味を墨守するのではなく、逆に独断 的に木に竹を接ぐがごとき解釈をして型の本義を歪曲 するのでもなく、修業者が正しい知識と自覚をもって これを実践、応用するとき、空手道の本質も、これを 現わす型も、時代を超えて常に新しく生き続ける。

本書は空手道型の正統な意味と重要性を新たに考え るべく、可能な限りの歴史的資料を駆使して現行の通 説に対する確認を試みると共に、修業者、愛好者が具体的に型の修得ができるよう、最大限度の写真数とレ イアウトの工夫によって編集した研究・実用書である。