写真集・人間兵器震洋特別攻撃隊

私たちは去る大東亜戦争末期、国運の傾くをみるや、もし我れ死しても、 わが日本国を救うことができるならばの一念に燃えて、震洋特攻隊員として、 青春の赤い血潮を沸騰させました。 比島および沖縄において、来敵を迎えた 震洋の先輩勇士たちは、目覚ましい敢闘を実施され幾多の戦果を挙げられま したが、空海陸を圧倒する敵の大軍の前に、その企図を破砕することはでき ませんでした。しかし、あの当時の状況で、しかも、小兵力で、敵艦に実害 を与え得たのは、海軍でも震洋と回天だけであったのです。内外各地に配備 され、満を持して来敵に備える幾千隻の震洋艇部隊は、なお、敵軍に対して、 大きな脅威であったはずであります。ただ一回の、特攻攻撃を成功させるた め、全智全能を傾けて、工夫と訓練を重ねつつ、空襲と欠乏、瘴癪に堪えな がらなお、満々たる闘志を抱いて、来るべきただ一回の突撃を期して、潜伏 していた戦中を忘れ得ないものであります。

しかしながら戦いは遂に敗れ、生きて再び祖国の姿を見ることになりまし た。占領軍の占領政策は、日本軍の武装解除はもちろん、全日本国民の精神 的武装解除に総てが傾注されて、日本の弱体化は徹底的に遂行されました。 昭和四十一年に至り、益田善雄氏(元一〇三震洋隊長)の発意により、水 上特攻関係の遺族、 戦友並びに幾多の賛同者の寄進を仰ぎ、遂に翌四十二年 五月、特攻殉国の碑を、長崎県川棚町の旧海軍川棚訓練所跡に建立すること ができました。そして毎年盛大なる慰霊祭が実施されております。祭神であ る戦没者の調査も、関係者の不眠不休の努力をもって実施され、年を追って 補充修正されて、現在、二五〇六名の震洋魚雷艇、伏竜等関係の戦没者をお 祀りしております。 ご遺族も逐次ご高齢となられますことが、真に痛ましく 感じる近年でございます。

震洋特攻隊は、帝国海軍が戦争末期、万策尽きながら、最大の期待をかけ 特攻隊でありました。

編成は総員一八〇名、隊長も大尉以下で非常な小部隊である 特攻攻撃 を敢行した部隊でも、空海を圧倒する敵飛行機、艦艇の猛攻に、味方部隊は、 混乱と敗戦の状況下であって、その戦果を確信する手段も、報告する手段も ないであろう四もし報告されていても、司令部そのものが混乱のため上層 に報告されていない 全滅した部隊の状況は不明・・・・・・等の理由によって、 震洋隊各隊の状況を知る者はその隊に生存者があった場合のみである。 戦中 の厳秘に加え、戦後は敗戦のため顧みるの暇なく、 戦史的には明らかでない。 今にして何らかの記録を残さない限り、鬼神も泣く突撃を敢行した勇士も、 見敵必殺を期して待機していた人たちの涙ぐましい努力も、また不幸にして、 事故や基地進出を果たさず涙をのんだ人たちの忠誠心も、永遠に忘れられて しまうことになりかねない。

戦争は悲惨である。勝っても敗けても莫大な人々の人命が失われ それに 数倍する負傷者や、有形無形の財産が失われます。けっして再びあってはな らないと思いますが、そうはいかぬのが悲しい現実です。第一次大戦後でき た国際連盟も、第二次大戦後できた国際連合も、戦争防止の決め手とはなら ず、未だに世界のどこかに戦争が、現実に行われています。これも愚かな人 類の宿命と申さねばなりますまい。

戦争を好む者はありますまい。しかし不幸にして戦争となった場合、国民 は好むと好まざるに拘らず、国と同胞を外敵の侵略から守るため、銃を取っ 立たねばなりません。 日本には憲法上これを禁止していますが、これは日 本の再起を禁止する占領軍の押しつけによるものです。日本は、戦没軍人に 対する慰霊と顕彰は、国民福祉の一部であるかの如きかたちで、細々と遺族 と役所関係者の手によって行われているという情ない状況です。 英、米、仏 を始めとして、世界各国共戦没軍人墓碑に対しては、常時、最高の儀礼をも って奉慰しているのとは比べることもできません。 こんなことでは、日本は 遂に滅亡すると思われます。

荒井志朗氏は、洵に奇篤な方であります。 数年間に及び、国の内外にわた り、旧震洋隊基地跡を訪ねて、写真を撮影し資料を収集し「震洋隊総覧」の 作成を企画し、近くその成果を見るとのことであります。その業たるや熱烈 なる愛国心に基づく義挙であると信じます。ただ、戦争は既に四十数年以前 のこと、全滅の部隊もあろう。関係者の他界もあろう。 完璧を期することは、 期待すること無理である。ただ、同氏の数年に及ぶ体力、私財を捧げての快 挙に衷心よりの拍手を送り、大方の讃同を得たいと存じます。