小倉百人一首帖
買取上限価格 5,000円
定価 | |
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著者 | 松本芳翠 |
出版社 | 高千穂書房 |
出版年月 | 昭和46年7月 |
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この商品について
皆見梅牛博士が嘗て私が揮毫した『小倉百人一首帖』を大事に保存されてみて、このたび高千穂書房から出版の運びとなった。私としては、うれ しいと思う反面、困ったことになったといふ氣持もして、甚だ當惑してる る次第である。
数年前の書海社新年試筆会に、皆見博士がはじめてこの書帖を持参され た。戦時中に防空壕で汚水に冒され、泥水にまみれたのを、今は亡き瑞穂夫人とともに、一枚一枚丹念に洗ひきょめられたもので、それほどに大切 にしてくださったことに、心より感謝したことであった。わが社中の幹部の諸君も、このときはじめてこの書帖を見たので、大層めづらしく思ったらしい。古い門弟には滅多に假名手本を書き與へなかつたものだから、特 に珍重したのかも知れない。その後、幾人もの人が皆見博士からこの書帖 を借り出して、敷き寫したり、真に撮つたりしたといふことである。皆見博士も諸君の熱心さに免じて、借覧の煩しさは厭はれなかったが、半年 も一年も借り放しの人もあり、この状態が続けば散伏する廣れも感じられ たらしい。
そこで、博士は、この『小倉百人一首帖」の刊行をおもひ立たれ、私の 許可を求められた。たびたびの要請に、遂に私も屈して、頒布の範圍を社 中關係者に限ることとして、この刊行に同意したのである。
ご承知の通り、私は漢字作家で、私の書く假名は所謂る假名作家のそれ とは自ら別趣のものである。この百人一首を揮毫する際に、手許にあった阪正臣先生の『百人一首色紙帖』を参考にはしたが、散らし方も全く私の 自由に書いたので、その本と私の書帖とくらべても、ほとんど似てはゐな い。一方は色紙型、私の方は折手本型といふ相違もある。とにかく、壮年 時の作でおはづかしいものではあるが、多少の参考になれば、刊行の意義もあらう。
本書の編輯は、すべて谷村意齋に委ねたが、印刷刊行その他について、 高千穂書房社長小林和男氏の多大の盡力を得た。ここに記して深甚の謝意 を表する。
庚戌十月念四亡妻三回忌の日に識す