天理図書館善本叢書・香要抄・薬種抄
買取上限価格 1,000円
定価 | 8,000円 |
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著者 | |
出版社 | 八木書店 |
出版年月 | 昭和52年9月 |
ISBNコード | 3395-9131-8500 |
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この商品について
いわゆる影印になります。天理図書館善本叢書第31巻
『香要抄』と『薬種抄』
上野益三 『香要抄』や『楽種抄』の書籍(巻子本)としての魅力の大半は、 その挿図にあると私は思っている。その図は、ごくわずかの動物や鉱物を除けば、どれもみな植物である。その中には粗楽な図もなくはないが、何しろ九世紀も昔の著作であるから、その時代のものとして見なければならぬ。その観点では、大部分の図はよく特徴をつかんで描いているといわねばなるまい。私は『大正新修大蔵経』に収める、これら古鈔本の影印を時折眼にして、愉しい気分に浸る。『香 要抄』の鬱金香、海州青木香、商州土、萱草、麝香、甲香など、 『薬種抄』の路州人参、徐州黄精の図など、どれも科学性を保ちな からも、そこはかとなく、稚拙な美しさを漂わせている。麝香(香鹿)、または青木香などはその愛すべき絵の随一であろう。 『香要抄』や『薬種抄』の作者(つまり抄者、兼意阿闍梨)は、 その挿図を朱の本草の図経から写したのであるが、抄者自身にすぐれた画才かなければ、いくら原図がよく出来ていても、これだけ暢一達な筆触の模写は出来なかったにちがいない。模写のもとになった、 十一世紀当時の中国本草の植物図には、模写図によって察すれば、同 時期のヨーロッパのハーバル(本草に対比せられるべき草木誌)の 挿図とくらべてみて、決して遜色のあるものではない。むしろ、ハ ーバルの図よりも科学的だとさえ言える。ところが模写の原本であ る宋本草は、その生国ではとっくに失われてしまって見ることが出 来ない。それを抄出し、図を写した、わが『香要抄』や『薬種抄』 に名残りをとどめるのみである。
このように、『香要抄』や『薬種抄』の伝存本は、図を伴った古鈔本として、観賞に堪えるのがその価値の一である。さらに、これらの抄物が『○航大蔵経』(図像編十一)に収められているように、 日本で出来た仏書の古典としての評価が定まっていることである。 これら古鈔本のもう一つの重要な学術的価値は、中国本草のわが国 への導入の証拠となることである。わが本草学史にとって、これら古鈔本は、平安朝後期における数少ない大切な史料である。今回複製の天理本には、それらの詳しい研究を遂げられた森鹿三博士の解題がある。それゆえ、私は右に言った、本草学史にかかわりのあることだけを、いささか述べることにしたい。
『香字』にはじまり、『香要』『薬種』『香薬』『穀類』『宝要』など の諸抄が、相前後して作られた動機は、平安朝中期に隆盛になった 密教での必要性に発したものであった。抄物の内容の大部分を、中 国本草の抜書や図の模写が占めることによって、本来は密教の修法 儀礼に用いる香薬の知識の典拠として作られたものなのに、後世になってみれば科学史上の重要な意味をもつに至ったのである。 – 修法に用いる供物には、五宝、五香、五薬、五穀などがあり、そ のあるものは護摩を焚くとき、真言を誦しながらその火中に投ずる。