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茶経評釈・諸岡存

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茶経評釈・諸岡存お譲りいただきました。昭和16年発行したものの復刻版になります。

茶経評釈・諸岡存
理解しがたい古典茶経を出来る丈け現代的に合理的に解釈及批評するのが趣旨

今から一千百七十一年前 人皇第四十七代淳仁天皇の、天牛寶字四年、皇紀一四二〇年、即ち、唐の蕭宗皇帝の上元の初め、陸 羽は、今の浙江省吳興縣城の再塘門外名溪の別髪に於て、門を闊びて茶経三巻を著した。唐土に於け る茶道は、これによって創設されたのである。

唐の文化は、唐末五代の亂を經て、殆ど破壊されて了ひ、陸羽の他の多くの著作の如きも、僅かに其 零碎のるのが、他書中に點在して、共痕跡を止むる位であるに拘らず、茶經のみは不思議にも、今に到る迄、何ほ完全に保存されて來た。これは、陸羽の友人に釋酸然の如き詩僧が多かつたので、彼等の宣 傅により、其後、茶紐が恰る輝宗の經典の如き觀を呈した爲めとも考へられるのである。併し、陸羽は 元來、佛門を遁れて儒教に歸還したと云つてもよい位の人物であるから、彼れの茶道は、明かに印度渡 水の佛教の依屬ではなくして、全く唐土本來の所産として創始されたものである。これは彼の百丈禅師 が、印度傳水の翻譯佛教を棄て〉、全く支那化したり道に歸依して、其清規の主要部分を茶に取つて、 忽ち、支那全土に輝宗を損げたのと其の趣きを一にする。


一、本書は非常に理解し難い古典茶經を出來る丈け、現代的に合理的に解釋及批評するのが主旨である。例へば茶以外の種々の植物名の如きる學術名を加へ、又地理の如き、歴史の如き、すべて現代流の地理歴史學の方式によつて解釋せむと努めた。又漢文學が昨今非常に装へて、その註籍は固より、其印刷にあたつては頗る困難に逢着したが、出來る丈け、人名、地名等を明かにす るため、別字型、括弧等を用の、又卒常用められぬ漢字で新しく鎬造した活字は蓋し夥しき數にのぼってみる。

一、本書巻一は『一之源』より『六之飲』迄の六章であつて、大體陸羽自身の茶に關する所說は是れで終つてある、嘗てはこの六篇を上卷とし、以下七から十迄を下巻とした事さへある位で、余っ之に倣って先づ第六章迄を第一巻とし、以下を第二巻とし、 更に第三途としては各種の必要な材料、例へば多くの茶經序文 陸羽像、年譜、茶經出版史、其他、茶經に關する文献索引、又 其れにいつて解譯評論せる余の數論文を載することとした。

一、原文には色々の趣向を入れずに節を分けた丈けにした。併し茶趣味の人は詩文にゅ又漢文にも興味あるものなれば印刷上の困難はあったが、讀者の希望を容れ、訓置を附することにした。その次に平易な和譚を附した。これは原文の意を忠賞にあらはす と共に成る可く跳譯丈らしくないやうにした、

一、『二之具』即ち製茶具、及『四之器』即ち飲茶器には、出來る丈け正確な圖解を添へること した。飲茶器に於ては相當參考もあつたが、製茶器に到つては殆ど資料がなかつたのである。

それを出來る丈け、漢唐の古き制度及び今代の風俗を考へて厳密に茶經の叙述を追ひ、具體的に之を書き表さうと勉めた。

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