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宮廷衣装の本は過去何回か紹介いたしましたが、今回は「宮廷の装い」です。図録になります。
このたび、明治・大正・昭和の皇室の方々の服飾を中心に、宮中の儀式や行事に参列し た皇室以外の人々の服飾も含めて、特別展館蔵『宮廷の装い」を開催することになりまし た。この時代の宮廷服飾は、はるか平安時代より受け継がれてきた日本固有の装束と、文 明開化以来導入に努めた欧風文化としての洋装と、二つの系統に大きく分かれますが、そ の背景には日本独特の美意識に支えられた典雅な宮廷文化があることは申すまでもありません。そこで本展を「装束」、「洋装」、「宮廷の文化と生活」の三部に分けて構成いたしま した。
御祭服、束帯、十二単(五衣・唐衣・裳)をはじめとする宮中の伝統的な装束は深い文 化史的意義と複雑な有職にもとずき、新しく取り入れた洋装は大礼服、中礼服、通常礼服 といった厳格な服制に従うとともに西洋服飾の流行を反映しており、その理解は一般には 難しいところがあります。
また、これらの貴重な文化遺産は、日頃我々の目に触れる機会 が少ないものです。国際文化を摂取しつつ、日本の伝統を大切に守ってきた宮廷服飾への 認識を深めるために、これまで博物館では積極的に収集を進めて参りましたが、そのなか には御寄贈賜わったものも少なくありません。多くの方々の御厚意に支えられて、このよ うに一堂に陳列できましたことに対し心より御礼申し上げます。このまたとない機会に御 高覧賜わり、宮廷服飾の美の世界を御堪能いただければ望外のよろこびです。
今回の展示にあたり、宮廷服飾の幅広さを十分に知っていただくために一部特別出品を 御願いいたしました。本展の趣旨に御賛同いただき、貴重な文化財の御出陳を快く御了承 賜わりました宮内庁をはじめ、御監修賜わりました高田倭男先生、鷹司綸子先生に、改め て深甚なる謝意を表する次第であります。
児玉コレクションを扱った図録は何点か出版されていますが、その中でも比較的珍しい図録かもしれません。
財団法人アイヌ民族博物館は、アイヌ文化の伝承・保存,及び 調査・研究,教育普及事業を総合的に行う施設として,1976(昭和 51)年,財団法人白老民族文化伝承保存財団として設立され,1984 (昭和59) 年には、アイヌの有形・無形文化を展示し,併せて学術 的に調査・研究を行う施設として「アイヌ民族博物館」を開館さ せたが,本年をもって財団法人設立20周年を迎えることとなった。 20年の歴史においては,多くのエカシャフチのご指導ご協力があり,また,関係各位からは格別のご指導ご支援を賜った。厚く感 謝の意を表する次第である。
そうした経緯を踏まえ,このたび財団法人設立 20周年を記念して,第11回企画展「樺太アイヌ一児玉コレクション」を開催することとした。
本企画展は、北海道大学名誉教授故児玉作左衛門博士が生涯を かけて蒐集されたアイヌ民族資料一いわゆる児玉コレクションの なかから,樺太アイヌ資料を展示・公開するものであり,樺太ア イヌの文化に触れていただくことはもとより,北海道アイヌ資料を中心とした当館常設展示と合わせてご覧いただくことにより, アイヌ文化全般についてご理解いただくとともに,広くアイヌ文化の普及に資するを開催の主旨としている。
本企画展開催,及び図録刊行にあたっては,現在,同コレクションの所有者である当館特別研究員児玉マリ氏の全面的なご指導 ご協力をいただくとともに,関係各位のご指導ご協力をも多とし, なかでも,市立函館博物館,函館市立北方民族資料館,東京国立 博物館・佐々木利和氏,北海道立アイヌ民族文化研究センター・古原敏弘氏,高木崇世芝氏,千葉伸彦氏には格別のご高配を賜っ た。深甚なる謝意を表する次第である。
資料は、通称「児玉コレクション」といわれ、その総数は5,000点をはるかに超えている。 これらの資料は、現在、市立函館博物館及びアイヌ民族博物館に寄託資料としてその人が 蔵・展示されている。 博士は、昭和4(1929)年に医学部教授として北海道帝国大学に赴任して以来、一貫して解剖学一 に日本人の形態学的研究に従事するかたわら、アイスの人類学的研究並びに民族誌的研究にも 清力を注ぎ、その足跡は、博士の著「緊急を要したアイス研究-私のあゆんだ道-」からだの 科学26 日本評論社出版1969), 「AINU-Historical and Anthropological Studies]」Hokkaido University School of Medicine 1970)等に詳しい。
博士がアイヌ民族資料鬼集に着手されたのは,北海道帝国大学に赴任されたのとほぼ同時期の悩 肌(1929)年頃のことであるが,明治から昭和にかけての、北海道におけるアイヌ民族資料蒐集は、江戸後期の大シーボルトに始まる外国一特にヨーロッパの博物館, 研究者及び骨董屋,一般旅行者 によって盛んに行われ,多くの資料が海外に流出している。日本では、戦前から戦後にかけて,河 野広道氏をはじめとして,馬場脩氏,杉山寿栄男氏,土佐林義雄氏らの蒐集がある。このうち、杉 川氏が蒐集されたものは戦禍にあい,現存していないとされているが,他の資料は,それぞれ旭川 市立博物館(河野コレクション),市立函館博物館(馬場コレクション),早稲田大学(土佐林コレ クション)に収蔵されている。
戦後、博士が資料を蒐集するにあたって,当時のアイヌ民族資料をとりまく状況を次のように述べている。
「……戦後北海道に進駐したアメリカ軍隊の将士とその関係者,ならびに調査や観光のためにきた 人々の中には,このアイヌ資料に着目して持ち去るものが非常に多かった。このため利にさとい商人 らはアイヌ部落に行き,これらのものを買い漁ったため札幌の古物商の店頭はいつもアイヌ品が溢 れていた。私は、貴重な資料の海外流出をおそれて,商人からできるだけ買いとる計画をたてた。……」 「緊急を要したアイヌ研究-私のあゆんだ道-」『からだの科学』26日本評論社出版 1969)
植十が蒐集された資料については,『児玉資料目録』 I・III(アイヌ民族博物館 1989,1991), 『児玉 コレクション目録』 「 (市立函館博物館 1987)等で,その全体をほぼ知ることができ,その詳細についてもすでに『児玉資料目録』 I に記されているが,全体的には,衣服,装飾品類が約半数近く に及び,たとえば,タマサイ , ニンカリといった装飾品はあわせて約1,500点を数える。次いで,儀 礼に用いられる諸用具類が多く, イクパスイについては約1,400点を数える。また,樺太アイヌ関係 については、カニクフ,カチョなど,現在希少な資料に加えて,故藤山ハルフチ,故西平ウメフチな ど伝承者に製作していただいた資料も数多ある。
博士ご自身も記されているように,これらの蒐集資料は古物商などから購入されたものが多く, バックデータの不備など,研究に供するにはやや難点があるのは否めないが,たとえば、資料の形 式の比較研究等に際しては,多くの情報を得ることができ物質文化研究には格好の資料とすることができる。
今後,博士が残された資料をより詳細に調査・研究することは、アイヌ文化の伝承・保存,及び 調査・研究に資するとともに,博士の遺志である「資料の活用」に応えることでもある。
美術染織の精華・織・染・繍による明治の室内装飾
わが国の染織技術の発展は,人々の生活に豊かな彩りを与えました。服飾に限らず,様々な装飾に用いられた染織は,様々な織り方に,染めによる美しい色彩や刺繍ししゅうなどの加飾技法を加えることにより,時代に応じて華やかな作品を生み出してきました。
染織作品が,ある特徴的な展開を示したのが,明治時代です。近代という新たな時代,西洋文化の移入に翻弄されて混乱した時,京都西陣を中心に,意欲的に染織産業の発展に立ち上がった人々がいました。フランスに学んでその技術や機械を導入し,それをさらにわが国の伝統技術で改良することで,新しい染織品を生み出していったのです。
そうした中,国内外の展覧会,博覧会に,絵画的な図様を染織の技術で表した掛幅や額の作品が登場して高い評価を得るようになりました。友禅技術の改良による天鵞絨びろうど友禅ゆうぜん,フランスのゴブラン織に学んだ綴つづれ錦にしき(綴織),そして伝統的な刺繍技術をさらに装飾的に用いた刺繍作品がその代表的なもので,西村總左衛門,川島甚兵衞,飯田新七が中心となって活躍しました。また同時に,明治21年竣工の明治宮殿の室内装飾のための壁張り裂や緞帳などの染織品制作もまた染織業界を活気づかせることとなり,装飾品としての染織作品―美術染織の制作が盛んになったのです。
今回の展覧会では,明治宮殿や離宮などに装飾された美術染織の数々を紹介します。染織品であるため経年変化を受けやすく,色彩の褪色や画面の劣化は否めませんが,これだけ多くの作品が遺っていたことは実に驚くべきことです。これら美しい作品を生み出してきた染織技術の高さと,制作者たちの意気込みを通して,あらためて人の手による文化の再生力の素晴らしさを感じていただければ幸いです。
ごあいさつ
このたび西武アート・フォーラムでは、日本の工芸界を代表する漆芸作家、 田口善国先生とその教えを受け、漆の世界で活躍されている方々を加えて、昭和62年度にひき続き添会展を開催するはこびとなりました。
田口善国先生は、平成元年に重要無形文化財「蒔絵」保持者として認定を受け、現在は東京芸術大学名誉教授として後進の指導育成に力を注 がれています。本展には三年を費した大作、蒔絵棚「煌めく」を出品されて、華麗にして斬新な境地を開拓されておられます。
今回は、田口善国先生を含め33名の作家の作品を一堂に展覧致します。 なお本展覧会開催にあたり、図録への詳細な作品解説を心よくお引き 受けいただきました東京国立近代美術館の白石和己、金子賢治の両氏を はじめ、ご協力の関係各位に厚く御礼申し上げます。
平成3年5月
西武アート・フォーラム
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