今回は仏教、中でも神道の本が何冊か入荷してきました。神道の本は古めの本は手に入れやすいのですが、今回は2000年代等に発行されたものも含まれています。
仏教や中国思想との習合を基調とし、複雑なる教説をもそのなかに含み持つ中世神道。その世界は、 天皇・国家と直結することで、あるいは素朴なる古代的自然崇拝を装うことによって、日本固有なるこ とを標榜する近世・近代の神道を相対化する存在である。
中世神道に関する研究は、長いあいだ神道史及び一部の仏教史家の間において、もっぱら担われていた。しかし、伊藤正義による「中世日本紀」の提唱(一九七二年)以来、日本文学が先導する形で、さま ざまな分野からの多様な問題意識に基づく研究が行われるようになり、ここ二三十年、状況は大きく変 化した。また、それまで近づき難かった多くの中世神道書の影印・翻刻による紹介や注釈書なども進 み、研究を取り巻く環境は、いっそう整えられつつある。
本論文集『中世神話と神祇・神道世界』は、神道史や仏教学、日本文化史研究が、戦前以来積み上げてきた研究の蓄積と、日本文学研究を中心とした新しい動向とを踏まえ、現在の研究状況と水準を一望 し、今後の展望を開こうとするものである。
執筆者は、日本思想史・神道史学・仏教学・日本史学・日本美術史・日本文学などにわたり、年齢的 にも八〇年代以降の状況を切り開いていった世代から、今の研究の最前線に立っている若手に及ぶ。こ れによって、〈中世神道〉研究が今まさに展開しつつある地平を開示したいと思う。
本書は東京帝国大学文学部に存在した神道研究室(神道講座)の和漢蔵書総計844点の整理作業の産物である。多くの貴重な資料を含むこの蔵書の内容を目録として示し、重要な を中心にその特徴を解説するとともに、神道研究室の歴史の検討を通して近代神通 神道思想の形成発展過程の解明に一石を投じようとするものである。
東京帝国大学には 1905年(明治38)に宗教学講座が開設されていたが、それとは別に、 90年(大正9)に神道講座が開設された。この講座は加藤大智、宮地直一、田中義能らのスタッフを擁し、3年後には神道研究室として形を整え、その後も時代思潮の後押しを受けて着実に発展の道を歩んだ。ついに独立した一学科にまで昇格するには至らなかった のその歩みを通して近代神道学の歴史に大きな足跡をしるした。 「闘後、神道講座・神道研究室は廃止され、旧神道研究室の蔵書は宗教学研究室が引き取 スととなった。以後、この蔵書の重要性は広く認識されていたが、その全容が明らかで やいままに、年月が経過した。本書の著者一同は、1992 年よりこの蔵書の整理作業にと がわかり、綿密な書誌学的調査による正確な目録の作成、重要資料の読解と神道史上・宗教史上の位置づけ、また、近代神道学史のなかでの神道講座・神道研究室とその蔵書の意 義などの究明にあたってきた。
地味な作業の積み重ねとなり長い時間がかかったが、ここにようやくその成果を一書に まとめることができた。本書の刊行によって、現在、東京大学宗教学研究室が管理してい z重要な資料の所在を、広く学界、読書界に明らかにすることができることとなった。示 教学研究室が背負ってきた積年の宿題を、まがりなりにもようやく果たすことができたよ ろでほっとしている。今後は適切な管理の体制をとって、資料閲覧の求めに応じるつもりである。 「蔵書には日本の神道史や宗教史の解明にとって、さらには文化史や政治史にとっても新 しい光を当てるようなたいへん貴重な資料が数多く含まれている。時代は近世に力点があ ることはいうまでもない。なかでも垂加神道の展開に大きな役割を果たした、正親町家の 蔵書 152 点は意義の大きいものである。本書の解題では、これら意義の大きな資料につい て、特に立ち入った解説を試みている。目録の部分も、内容的に重要であるとともに量的 にも多い正親町家旧蔵書については、第2部Iの他の蔵書と区別して第2部 II として独 立させた。