さいたま市岩槻区より過眼墨宝撰集・10冊・古筆学研究所・小松茂美等書道書買取事例
1巻から3巻程度までは良く目にするのですが、10冊セットはあまり入荷してきません。今回は幸い10冊セットになります。ありがとうございました。
昭和二十八年四月、東京国立博物館美術課書跡室に勤務するようになって、日々、眼の前をさまざまな書跡が通過した。資料用写真の撮影は、時に応じて、私のカメラにも収めておいた。 昭和六十一年三月、私は同館を定年退職した。これら私的な写真資料も、三十三年もの長い歳 月の間には、じつに十万枚にも達した。今日では、これは、私の古筆学研究の武器の一つとな っている。
定年退職を契機として、古筆学研究所を創設した。日ならずして、真贋の判定を求めるため に、書跡の持ち込みが引きも切らない。これらの中には、私に新知見を加えるものも少くはない。同時に、古筆学研究所の業務の一環として、「書跡認定調書」を発行して来た。いうなれば、一点一点の書跡の戸籍台帳づくりである。この仕事は、古筆学研究所永遠の重要業務の一つと 心得る。永い伝世の果てに今日に伝来した書跡群を、正しく評価して、次代の研究資料として 遺すのである。
今、その調書の全貌を公刊して、江湖に問う。名づけて、『過眼墨宝撰集』。古筆学研究所が発行した調書の大半を、この叢書に収めるべく企てた。冊を重ねるごとに、これが書跡研究の基礎資料として偉力を発揮することを期待して疑わない。
昭和六十二年七月吉日
古筆学研究所長)小松茂美
(一) 古筆学研究所は、昨年四月発足以来、皆様方の御援助により、 まずは順調な歩みを続けております。当初、企画した仕事も、一つ一 つ形をつくり上げて参りました。
(二) この『過眼墨宝撰集』も、その重要なものの一つであります。
(三) 古筆学研究所には、真偽の鑑定を求めるために、日々、数多
くの書跡類が持ち込まれております。
(四) これらの真偽を厳正に判別して、後代に伝えて保存すること は、われわれの責務であります。
(五) したがって、古筆学研究所に鑑定を依頼されましたものにつ
きましては、長い時間をかけて、万全の調査をした上で、そのつど、
一点一点に「書跡認定調書」を発行しております。
(六) これは、その書跡に対して、可能のかぎりをつくして、調査・吟味をつくしたものであります。その一点一点のすべてが、一通の調書によって判明するように考究いたしております。いわば、それに
対しての小論文を執筆するような心構えで取り組んでおります。
(七) 調番の記述は、むずかしい書跡の解読・考証ともに、平易を 営とすべく心がけております。したがって、調書に記載の条々も、一目して全貌が知悉できるようにするため、要点を箇条書きにしてあります。
(八) この『過眼墨宝撰集』は、右の「書跡認定調書」を図版とと もに掲載したものであります。これに収録した書跡類は、大半が世間 未発表のものであります。つまり、新資料としての価値が高いものです。
(九) この『過眼墨宝撰集』は、当分の間、年二冊の割合いで、刊行を予定しております。しかし、将来、事情が許せば、三冊の刊行も企てております。
(十) この『過眼墨宝撰集』が三冊、五冊、十冊と集積された暁に は、書跡の基本台帳としての活用に大きな力となるものと確信してお ります。
(十一) 第一冊刊行直後、多くの皆様方に御購架いただき、すでに第二冊の予約もいただいております。また、「古筆学研究所友の会会員」以外の多方面の御方からも御褒詞や激励をいただき、一同心強く、 感謝いたしております。
(十二) 第二冊は、明年一月末日に刊行すべく、すでに印刷に取り かかり、只今、校正をすすめております。