下記仏教書数箱お譲りいただきました。中から気になったものを何点か紹介いたします。
一代經律論釋法數重刊序
一代經律論釋 法數六十八卷は往昔支那寂照和尚が勅を奉じて編纂せる所にして、佛典中に散在せる巨多の名數並に漢土の古史古典中の重要なる名數を網羅し、之に簡明なる註解を加へたる一部の佛教大辞典なれば、佛教學者の珍襲すべき良書なると論を待たず故に我朝萬治の頃、京都某書肆之を飜刻し、句讀を付し、訓点を加へ廣く世に流したりと雖歲を經ると久うして版本漸く跡を絶ち、方今坊間に存するもの甚多からず學者をして浩嘆せしむると夫幾千ぞ吾曹之を慨すると此に年あり遂に意を決して之を活字 に印刷して教界を利せんと欲し、明治三十一年二月業を創め 幾多の障碍に遇い、且詳密の挿圖、難澁の文字等の爲に非常の困難を被りたるも誠心鋭意敢て挫折せざると前後一ヶ年餘、今や僅に終局を告ぐるを得たり
日蓮聖人御引用・法華三大部集註
日蓮大聖人第七百遠忌の聖辰にあたり、本書を刊行できたことは誠に欣 びにたえない。
本書は日蓮教学を理解するうえに於いて、その基礎となるべき、天台大師智 顎の法華三大部のうち法華文句の教学的解明を試みたものである。古来、法華三大部は天台宗をはじめとして各宗派にわたり広く研鑽され、当家においても諸檀林で学ぶ必須の修得書目として、多年の考究と講談の席が開かれ、その蓄積し得た知識は洸洋なものがある。しかしながら、近代に至りて、この種の伝統的法門教義を学ぶ者は甚だ少なく、万巻の書は法蔵に溢つといえども、巻を拓く者はなきありさまとなっている。しかしながら未だ各地において少なくはあるが、日蓮教 学の研鑽に不惜身命の努力を傾注されておられる方々がおられ、法灯は連綿として受け継がれている。
この様な現状に鑑み、また後進への道標として、敢て本書を上梓した由縁は、法華三大部の修得に多年の労を要しまたその修得をより簡便ならしむるためには、日蓮聖人遺文に御引用されている法華三大部の文々句々を抽出・整理し、引用典拠と引用義趣を開発するにしく はない。斯道を志す者にとりてこれは洵に多時日の労力を要する。本書に提示された資料は、筆者が、昭和四十三年から昭和四十五年に至る三カ年間、毎日十二時間の分類整理作業をへて出来上がった原稿から、抜粋したものである。その後、十年以上も原稿のまま書庫に放置しておいたが、この聖年に値遇し、一大決心をもって世に問う次第である。
なお、註釈書類は、いずれも日蓮聖人御門下屈指の碩学の註疏を参照し、重複簡所は削り、 読了に便ならしめることにつとめた。
これにより、日蓮教学における法華三大部受用の形態とその継承している法華思想の心髄と骨格が明確に理解されれば筆者にとりてこれほどの倖はない。
昭和五十六年四月廿八
凡例
一、引用遺文は「昭和定本日蓮聖人遺文』(立正大学日蓮教学研究所編)を用いた。 一、本書の目的が日蓮教学を学ぶ入門的立場にある人を対象としているため、読解に便宜なることを第一義とした。
一、原漢文は書下しにした。
一、かな遣いは原文を重んじたが、難解な箇所は一部現代表記とした。
一、経文・論・釈の書き下しに際しては、岩波文庫版「法華経」上中下巻(坂本幸男訳)や、摩訶止観』上下巻(関口真大訳) 大東出版「国訳一切経」を参照したが、日蓮教学伝 統の読みと異なる点は、伝統的な檀林読みに従った。
一、出典箇所は大正新修大蔵経の巻数頁数を目次・本文に明記して学術研究に便ならしめた。 一、御遺文中の引用文の定義に明確な基準を設定したものではない。ただ、経云・論云・釈云を主として引用としてみとめ、たんなる語句のみの引用も重要とおもわれるものは用いた。
一、引用文の調査範囲は真筆・古写本の現存する正篇上・下 昭和定本遺文第一・二巻とする。 一、御遺文の註解は『新日蓮宗全書』(本満寺発行)に依った。
日蓮正宗史の基礎的研究
昭和三十八年富士学林図書館員を拝命、日亨上人積年の史料蒐集文庫でもある多宝蔵に入り、その史料を縦覧することができるようになり、入蔵毎に上人の御心に触れる思いで感激止まざるものがあった。
「その頃、日達上人より古文書解読作業を仰せつかり、爾来多宝蔵の古文書・学林図書館の蔵書の整理 をし乍ら、地方由緒寺院や旧家の蔵書調べなどをして作成した目録は二十余篇になる。
其の間、日蓮大聖人御書・歴代法主全書・富士年表等の編纂委員の末席に加えられ今日に至る。この約四十年間には少分乍ら宗史の断片的な知識を得ることができた。これはひとへに日達上人・日顕上人の慈愛溢れる配慮によるものであり感謝の念にたえない。特に日顕上人からは本書出版の認可を賜わ り、この御鴻恩は世々を経ても報ずる能わざるものである。
本書は宗史の一片を考察した小論と史料目録であって、既発表の中から選出して若干の加筆訂正をしたものである。いずれも研究途中であり、未完作であることを断っておきたい。探察力不足のため誤記 脱漏は免れないが、後賢の宗史研究のため一行でも役立てば幸甚の至りと思っている。
次に、今日の宗門史の基本史料の大半は日亨上人の御努力の蒐集に成るものと拝するので必須参考と して「日亨上人著述目録」を付加させていただいた。
このたび、元日蓮正宗富士学林図書館長・山口範道師によって、本書が出版されるに当たり、お手伝いをさせて頂 いた一人として、これまでの経緯を述べて刊行のお祝いとしたいと思います。
私に本宗の教学振興のために、山口師の長年にわたる宗史関係の研究を一冊にまとめて出版しようと話をもちかけ てこられたのは、学生時代からの畏友花野充道師でありました。
私も日頃、山口師より富士学林図書館の史料の紹介や、宗史に関する御教示を受けている者であり、また師が論文を発表されるたびに寄贈を受けており、それらの論文を一冊にまとめておけばどれだけ後学の人達の勉学の参考にな るだろうかと思っておりましたので、全面的に賛成致しました。
早速、花野師と共に山口師に会い、出版に関する一切の手続きは二人で引き受けるので、是非ともお元気なうちに 後学のために出版して下さるようにお願いしました。山口師は初めは自著の出版を遠慮し、固辞しておられました が、ようやく私達の願いを聞いて下さることになり、論文の編集を山口師御自身が担当、出版社関係を花野師が、諸 手続きや雑務を私が担当することになりました。
宗務院教学部に内々御相談申し上げ、山口師の論文のゲラ刷りの原稿が大体まとまった平成五年二月九日、教学部長大村寿顕師の御指導を頂いて、御法主日顕上人にお目通り申し上げ、山口師の著作出版についてお願い申し上げます。
日顕上人には、山口師の日頃の学問に対する真撃な姿勢とその努力を賞賛して下さり、このたび山喜房佛書林より 同館の論文集を出版することについて快諾して下さいました。さらに日顕上人は、これからの我が宗門は、布教興学 のために僧侶が積極的に自ら学問を積み、論文を執筆し、出版していくべき時であることを御指南下さいました。そ の意味においても、本書はその先駆けともいうべき意義深い出版と言えましょう。
山口師は、出家以来三十余年間、ただ一筋に本山の図書館や雪山文庫の整理の合い間をぬって、古文書の解読や宗 史の研究に当たってこられましたので、日顕上人のおほめの言葉はどれほどかうれしかったことでしょう。このたび の出版のお手伝いをさせて頂いた私としても、深く日顕上人の御慈悲と教学部の御配慮に御礼申し上げる次第です。 今日の出版に当たり、新たに総本山第五十九世・堀日亨上人の著述目録をまとめ加えました。
堀上人に有縁の円谷昌世様から、同上人が生前中、御自分の著述出版目録をまとめておきたいとのお話しがあったことをお聞きし、私としてもいつの日にか「日亨上人著述目録」をお作りしたいと思っておりました。そのことを山日にお話し申し上げたところ、本宗の宗史の集大成をされた堀上人の目録は宗史研究の根本資料ということで、まとめて下さることになりました。 日頃、堀上人のノートを解読し、雪山文庫に長年入蔵して整理研究してこられた山口師によって、同上人の著述目線が作成されました。本年、齢九十を迎えられた円谷昌世様もいかばかりかおよろこびのことと思います。
また、本書に収録された「日興上人の御花押の研究」は、さきに宗内で発表されたものですが、今回収録するに当 たって、の恩部・高木藝先生のアドバイスに従い、各御花押の下に執筆年代を入れるなどの補筆をして収録したも のです。