さいたま市中央区にて歴史書等買取
こちらは大西郷全集・3冊です。復刻版ですのでそれほど珍しくはないのですが、見返しも装丁も力が入っていますので紹介いたします。いまだに売れます。更に天金本です。こちらは元版で名はなく大正15年-昭和2年の復刻版になります。
本全集の装幀は田中良氏の手になったもので薩南に最も大き竹を以て大西郷の淡泊豪壮なる気性を象徴し、見返しの金刷はかの平野國臣をして「我が胸の燃ゆる思いに比ぶれば」と歌はしめた桜島を表したものである。
伊藤公が「西郷は偉い人物だが横着なところもあった」と言い、大隈公が「西郷も偉いは偉いがやはり人間で足りないところがある」と言ったのを打ち消さぬと同時、理想的と称するほど器が大きくて情に厚く世間で大西郷といい、西郷先生といい、南洲翁といい、明治大正を通じ位人臣を極めた若干の士に遠く優とするのの偶然でないことを知る。英傑は古代中世に限って居らず、19世紀時代ナポレオンが出で、明治年間に大西郷が出で、現在及び将来の人の意を強くするに足る。
こちらは別箱分です。正直買取価格はほとんどお付できないのですが、最近部数も少なくなっていますので紹介させていただきます。
日本城郭全集・10冊/井上宗和編・日本城郭協会
東京大学教授藤島亥治郎
本来、城がそれほど好きになれない私が、この本に序文を書くとはどうしたことかと我ながら不思議に思うのだが,しかし、それほどに驚くことはない。私が城に対して抱く反感は、第一に、城が戦争を目的とした造営物であるということと,第二に,それが近来頓にもてはやされて、各地に巨費をかけて城を再現することが,実は観光や購売にかこつけての抜け目ない利慾に基くことによっている。この反感は正に誤りないものであると信ずるが,一方,そのような一方的な感情論だけでは処理し得ぬ要素を城は数々持っていることに、また内々敬意を表していることを告白せねばならない。
第一、逆説的だが,少くも近世の城は近世封建制度の象徴であることに価値がある。城を取り巻く城下町が,傲然と高く構えた城を中心として,武家屋敷,町人町,社寺の敷地と外方に拡がった三角錐のような都市形態によることほど封建社会の実態を見せつけるものは、ないが、それは曹てそのような社会が存在したことを示す文化財的な価値を持つというものである。ことに城下町から発展した現代都市としては、都市の歴史を語るものとして意味があろうし、また都市を立体的造形物として見るとき,都市の冠として,これほど素晴らしいものはあるまい。
第ニに、城のもたらした土木建築技術の発達には驚くべきものがある。戦争は厭うべきであるが,自己の生死,一国の盛衰に関するとなると,真剣そのもので,人智のすべてを尽す。原子力の世界も戦争が動機となって開けようとするように,近代日本の技術界も築城で発達した。大規模な堀と石垣,未曽有の高層建築は年と共に発達し,耐震・防火の設備も,またこれに伴い,その後の土木建築界に及ぼした貢献も亦大きいことも見逃がせない。
第三には城の造形美である。城が本来軍事施設で,美を顧みる暇がないに拘らず,武士の感性は鎧冑を着飾るように、城も美しく整える ことを忘れない。城は武士の居館なればこそその要求は強く、加えて彼等の威厳誇示の材ともなる。しかもそれらは戦術的・技術的要素の 上に立つ美である故に、建築的にも純粋である。かつ,それらには城主,工匠の好みや地方色が織り交ぜられて、それぞれが個性を発揮す る。私たちがそれらを歴訪する楽しみは亦これにより豊かさを加える。 以上の三つに加えて,城にまつわる歴史と伝説は時に美しく、時に凄惨であろうとも、時の流れはすべてを美しく浄化する。 かくて城は今は人々の情操を豊かにし,親しみある文化財となった。何よりも城は見ることの楽しみを与える。これに史観を加えたら更 によかろう。この本は机上でとりあえずその要求のすべてを伝えるべく編まれた。これにより親しみ、理解された城の姿を、やがて機会あ る毎に実際に訪ねたらその楽しみは一しおであろう。好著を得たことを喜び乞われるままに敢えて序文を物する所以である。