札幌のお客様より刀剣の図録を1箱送っていただきました。埋忠刀譜・刀剣×浮世絵ー武者たちの物語などありがとうございました。
『埋忠刀譜』解題
「埋忠刀譜』(刀剣博物館蔵)は、一般的に「埋忠銘」と称される写本の一つである。これまで 出版され広く利用されてきた『埋忠銘鑑』は、江戸時代後期に再編集されたもので原本とは配列 が大きく異なったものである。さらに、再編集の過程で『埋忠銘鑑』は、誤って違う絵図をセッ トとして取り扱ったり、注記を別の絵図とセットとして取り扱ったりしたものもある。これに 対して今回出版する『埋忠刀譜』は、原本に忠実な唯一の完本であるため、『埋忠銘鑑』とは全く 違う配列で注記などの省略もなく、『埋忠銘鑑』の間違いを修正することが可能である。
一例を示せば「埋忠銘鑑』は、『埋忠刀譜』の彫物図(六九十一~五)を一括して波泳兼光として おり、現存するものとは別のものとされてきた。しかし、『埋忠刀譜』では、降龍の彫物図(六九 ー五)が単独で波泳兼光とされており、現存する波泳兼光の彫物と同図である。この他にも、『埋 忠刀語」を利用することにより、正しい知見を得ることが可能となるものがある。
『埋忠刀譜」の原典は、埋忠家の注文台帳・寿斎家の台帳が中心となったと考えられる。これら の台帳は、数十年間に渡って複数の人の手によって作成されたものであり、台帳を作成した人 物によって絵図の描き方・注記の記載の仕方に差異が生じている。『埋忠刀譜』の前半では、注記 の記載(文字数)は少ないが、刀身図と茎図のセットの場合でも茎図の彫物図を省略していない ものが多い。これに対して後半では、注記の記載(文字数)は多いが、刀身図と茎図のセットの 場合では茎図の彫物図を省略したものが多い。『埋忠刀譜』の利用に際しては、こういった特徴 があることを踏まえて活用する必要がある。
以下、「埋忠銘鑑」について、拙稿「「埋忠銘鑑」と埋忠家の系譜について」(『埋忠〈UMETAD A〉桃山刀剣界の雄」、二〇二〇年、大阪歴史博物館・刀剣博物館・読売新聞社・NHKエンター プライズ近畿)の研究成果から概要を紹介して埋忠刀譜』の解題としたい。
『埋忠刀譜』複製本発刊を喜ぶ
佐野美術館理事長 渡邉妙子
九州産業大学准教授・吉原弘道先生の監修による『埋忠刀譜』複製本が出版されることになりました。
吉原准教授は、古文書学的視点から「観智院本銘尽」の整序研究、次いで「龍造寺本銘尽」の発見により、両書の比較研究によって刀剣の鑑定書誕生の謎に一条の光を当てられました。
この度、吉原准教授監修により、『埋忠刀譜』が復製発刊されることは、刀剣界のみならず、中世武家政権の歴史研究にとって、大変有意義な資料提供になることと思います。
金工を本職とする埋忠家は、鑑定・研磨を本職とする本阿弥家と共に、新興大名の名刀収集と名刀を名刀たらしめる折紙、無銘刀剣への名工の金象嵌、?や刀装具の飾り金具の整備などに尽力しました。外部には内密にされていた依頼を受けた武将たちの名、仕事の内容、価格などの手控帳が即ち『埋忠刀譜』なのです。
一頁開いたら、最後まで頁をめくりたくなることでしょう。