中世の出土銭・近世の出土銭など古銭関係の本・考古学書 宅配買取事例 目黒区のお客様より送っていただきました。資料性の高い専門書です。
序
日本の中世を中心とした時期に、全国的に大量の出土銭貨が存在することは明治時代か らすでに知られていた。 これらの出土銭貨は北宋銭、 南宋銭、明銭等の中国渡来銭から構成されており、 その出土総量は内容があるていど確実に把握されるもので約300万枚、不確実な出土記録も加えて推定するとその約3倍以上が出土していたとみられる。それらの 多くは日本の中世における経済活動、貨幣使用の状況を考えるうえで第一等の資料と言うべきものである。
しかしながら、これらの大量出土銭貨は偶然の機会に発見されることが多く、その出土 状態などを十分に調査することが困難であった。さらに学術的な資料としてよりも骨董的、 好事家的な関心のもとに扱われることが多かったため、出土後に散逸してしまった場合も 少なくなく、学術的な資料としてこれらの銭貨を利用するにはかなりの限界があった。さ らに、数千から数万、 時には数十万といった規模で発見される出土銭貨の内容を細かく吟 味するのは容易なことではなく、これらの状況が出土銭貨の研究を停滞させる原因となっ ていたのである。
このたび、 永井久美男氏を中心とした兵庫埋蔵銭調査会の方々が、全国75遺跡、約200 万枚に及ぶ出土銭貨についての情報を集成し、 『中世の出土銭』として刊行されたのは、 従来の出土銭貨研究の不十分な点を補うのみならず、研究の飛躍的な発展に資するところ きわめて大きいものがある。
本書の刊行により出土銭貨の基本資料が多くの人々に自由に利用できるようになったの であり、これが契機となって中世銭貨に関する研究が飛躍的に発展することになると確信 するものである。
慶應義塾大学鈴木公雄
刊行によせて
この度、 大里古銭の第二次調査と、『阿波海南 大里出土銭-中世期大量埋蔵銭の調査報告書』の出版に至った理由として、次の3点があげられる。
一海南町史編さん事業を進める中で、更に詳細な資料の必要を感じたこと。
二大里古銭の文化財的価値を全国的視野に立ち、明確に位置づけておきたいと考えたこと。 三. 今後予想される大里古銭博物館 (仮称) の展示資料の参考解説図書として、事前準備の 必要を感じたこと。
このような思いをしているとき、幸いに兵庫埋蔵銭調査会(代表・永井久美男)との出会いがあった。
1990年 (平成2) 4月7日、来庁された調査会の方々に、 大里出土銭の不明銭の一部を調査 してもらったところ、 「貨泉」 が発見された。 貨泉は、この報告書の中でも詳しく述べられて いるように、 中国の新時代 (A.D.14) の貨幣で、本県では最初の発見であり、全国的に見ても 極めて貴重な古銭である。この貨泉の発見が、第二次調査に拍車をかけたことはいなめない。 しかし、私の心を強く動かしたのは、永井久美男氏を代表とする兵庫埋蔵銭調査会の優れた専 門的知識と、徹底した学究心、すばらしいチームワークとその行動力に心を打たれたことによ る。リーダーの永井久美男氏の力量については、氏の名著 『播磨国旗本札図録』 をはじめ数々 の埋蔵銭調査研究報告書などにより広く世に知られている。全国的に出土埋蔵銭の専門的研究 家の少ない現状の中で、このようなすばらしい研究者に出会い、第二次調査をしていただき、 その報告書の刊行ができたことは、この上もない幸せなことであった。
永井氏をはじめ、兵庫埋蔵銭調査会の方々には、7万余にのぼる大里出土銭を、 まさに寝食 を忘れて究明し、 多大の成果をおさめられました。
- 一. 大里古銭は、最古銭を王莽銭の貨泉、 最新銭を元銭の至大通寶とする 70,088枚で、県下 最大の貴重な出土銭であること。
- 二. 出土銭の種が、 北宋銭と唐銭を主体に、 高麗銭、 安南 (ベトナム) 、 わが国の皇朝銭 を含む81種類であること。
- 三. 貨泉、通正元寶、 亨重寶、 乾道元寶など全県的並びに全国的にも稀少な古銭が発見さ れたこと。
- 四. 渡来銭を鋳写した本邦模鋳銭、 島銭などの民間鋳造銭が検出されたこと。
- 五. 収納容器は、 容積約93lの備前系の大甕で、 製作編年は14世紀代のものと判定されたこ
と。
刊行にあたって
新居浜市は、平成9年11月に生涯学習都市宣言を行いました。 生涯学習を推進していくための基本 的な柱の一つに、ふるさとを知り、ふるさとに学び、ふるさとに感謝し、ふるさとへの愛着や誇りを 育むまちづくりがあります。このことは、地域の個性と伝統を重んじ、脈々と受け継がれてきた先人 の財産をこれからの新しい時代に活かしながら、地域の文化を高め、活力ある地域社会づくり、ひい ては21世紀を担う創造的で心豊かな人を育て、魅力ある新居浜を形成していくことにつながってまい ります。
21世紀を目前に、目まぐるしく変化を遂げる混迷の時代にありまして、 今、最も心しなければなら ないものは、先人のたどってきた足跡を振り返り、 我がふるさとの貴重な文化財を見つめ直しながら、 自らの足元をしっかりと固めることであります。
この度、発刊の運びとなりました 「中村岡の久保出土銭-中世期大量埋蔵銭の調査報告書」 は、新 居浜市指定文化財の中でも、考古資料として非常に希少なものを克明に調査したものであります。 特 に、中村岡の久保出土銭は、 大量出土銭の中でも、殆ど散逸していないことなどから、 全国的にも非 常に重要な遺物です。 大量な貨幣を埋めた人、 埋められた理由が解明されていないことなど、 本書の 刊行が現代の人々に中世期への夢を想起させるものと期待をいたしております。
最後に、 出土銭とかめの調査と本調査報告書の編著に当たられ、日夜を分かたぬ多大な労力と時間 を費やしていただいた兵庫埋蔵銭調査会の皆様と、 故松本節太郎氏、 松本耕太郎氏を初め、各般にわ たりご協力をいただいた皆様方に心から御礼を申し上げます。
平成11年3月