こけし・郷土玩具の本狭山市へ出張買取事例。ありがとうございました。
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こけしは、東北地方固有のもので、江戸末期の文化・文政期(1804~ 1830年)に木地師が創り出したと云われています。
私が子供の頃、仙台近辺ではこけしを「木ぼこ」と呼んでおり、どこの家 にもある身近な玩具でした。戦後、鳴子に住む漆工家の伯父を訪ねた時 に、二人の工人に出会い、各地を転々として廻った木地師の苦労話を聞き、胸を打たれたものです。
昭和20年代から30年代にかけ、仙台の居酒屋“炉ばた”で、囲炉裏を 囲んで天江富弥さんから伺ったこけしの探究への蘊蓄は、私をこけしの世 界へ引き込む大きな説得力となりました。
それから50数年、こけしのとりこになった私は、戦前戦後のこけしを蒐集 して参りました。
東北六県に分布するこけしは、その地方独特の文様や表情をしていま す。最小限の空間の中に、古来の東北人の顔・文化・風土を表現してお り、東北の誇る文化的財産と云えましょう。
私の蒐集品の一部(在品)をここに紹介致しますが、皆様にこけしの素 晴らしい魅力の輪郭を感じて頂ければ望外の喜びでございます。
最後になりますが、本図鑑を発刊するに当たり、御助言を賜りました高橋 五郎様に心より感謝申し上げます。
夜赤昭位
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こけしを蒐め始めて二十年近く経った。量は六千を越えて、所謂古作も千本ほどになっ たが、先覚者や、戦前からの蒐収集には比べるべくもない。 こけしの最盛期であった明治期はもちろんのこととして、大正も自分の生まれた昭和初期もすでに遠い。
半生を出版に携わったことを利して、保存記録本能もかなり強いほうなので、これまで に、「愛こけし』、『こけしの旅』、『こけし古作図譜』、『こけしの世界』、同人雑誌『木の花』 などを著作・編集してきたが、また、造本の虫が疼いてこの本を出す仕儀となった。私に とって、短歌は、子供の頃からの表現手段であったし、土俗人形に満更不向きでもあるま いと思い、作った歌が数百になった。共感してくださった先輩・蒐集家・工人なども少な くはないので、ここに載録し、その分、解説は極力圧縮した。こけしと歌なら珍しい組合 せであるから、出版の理由の一つにはなろうと思う。
書名は、こけしを木偶の嫡流と見、相聞に寄物陳思のこころも含めた。 こけしの選択は、中屋惣舜氏に相談にのって頂いたが、結局は自分の好みになった。好 きな古作はなるべく大きく載せ、参考や資料になりそうなものは小さくでも収録した。割 愛した古作や工人も少なくはなく、総合的図録としてみると甚だ整合性にかけるが、後進 の蒐集の限界、時間と経費の制約などの観点をもって、御寛恕頂きたい。
こけしの配列は、通説に拠る系統別とし、収録の全部のこけしとえじことに通し番号を つけた。寸法は頭頂から胴下端までを尺貫法で示した。製作年代は、これまでの研究や胴 底の書込みなどを参考にして、寸法の次に記載した。なお、年代は昭和→昭、大正→大正末期→正末、昭和初期→昭初、などと略記し、また、こけし仲間の慣習で工人の名とその作品とを混用し、その他館用語も若干そのまま使ってあるが、ご判読願いたい。
本書を、妻の誕生日に上梓し、道楽を見守ってくれた妻と一人娘とに、最初に贈る。 一九八四年九月)
植 木 昭夫
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