日本古文書学論集・久米邦武他など歴史書各種買取事例ご紹介。ありがとうございました。
刊行の こ と ば
古文書学が、歴史学における研究の一方法として紹介されてから、すでに百年あまりの歳 月を数える。この間、修史事業の基本的作業の一環として、古文書が積極的に調査され、 「史料」という確固たる位置づけが与えられた。今日における日本史像の構築において、古文 書学が果たした役割の大きさは、いまさら言うをまたないであろう。これとともに、古文書 を歴史の所産と考え、多様な形態を示す古文書そのものを研究の対象とする試みも早くから 行われた。日本史の動向を踏まえながら、古文書を体系的に理解し、その全体像を明らかに しようとする努力も、明治から今日に至るまで、幾度となく試みられ、成果をあげている。
しかしながら、古文書学のこれまでの発展の中で、その重要性が指摘されつつも、歴史学 に対する補助学ないしは史料学として、副次的評価しか与えられなかった時期もあった。古 文書の研究を目的とした日本古文書学会の歴史が、ようやく二十年であることも、学問とし ての主体的営みがいかに困難だったかをよく物語っている。
戦後における諸学の急速な発展のなかで、古文書研究における研究領域の拡大と多様化は、 特に注目されるべきものの一であろう。しかも、全国的にみられる歴史研究に対する関心の 高まりや、科学技術の高度な発達は、古文書学の世界にもう一つの新しい扉を開こうとして いる。私たちは、このような現状を踏まえて、斯学のより高い発展を夢見、これを実現して いかなくてはならない。
日本古文書学会は、これらの要請に応えて、『日本古文書学論集』を編集、発行する。戦後の 古文書学研究の成果を主としながらも、高く評価される基礎的研究をそれ以前の時代に求め て、充実した内容とすることを意図した。本書の公刊によって、これまでの古文書研究の全 貌が窺われ、今後における研究の土台としての役割を果たすことができれば、これに過ぎた る幸はない。明日の古文書研究に大きな期待を寄せながら、この論集の刊行の辞とする。
昭和六十一年九月 日本古文書学会