歴史書買取 水戸藩史料・水戸義公全集他 伊奈町にて

水戸藩史料・水戸義公全集他歴史書入荷いたしました。ありがとうございました。

 此書は明治二十一年七月宮內大臣より達せられたる御沙汰の旨に 基づき嘉永六年癸丑より明治四年辛未に至る水戸藩の國事に鞅掌せし 事蹟を取調べ史料として探擇に供ふる爲めに編纂せしものなり 一此の書分ちて上下二編と爲し嘉永六年癸丑六月より萬延元年庚申 八月迄を上編とし以下明治四年辛未迄を下編とす事の癸丑以前に係る ものは別記に詳なり

一 癸丑より辛未に至る凡そ十九年、國事の多端なる固より枚舉に暇 あらず或は同時に於て幾多事件の交錯紛出せるもの亦少からず故に本 書,年を遂いて編茨すと雖も各事件に付いては節を分ちて記載し其の 顛末を叙す因りて記事或は前後に交錯するものあり是を以て每巻首に 必ず年號干支を掲げ之が年紀を表す

一 編纂の主旨素より史料として探擇に供するに在り故に重要文書は其の原文を登載し其の他書翰日記雑記等參考とすべき書類は(冬) とし て之を收錄し或は之を細註とし以て事實の詳細且っ根據あることを示 す繁冗に渉るの議は敢て辭せざる所なり。 一 事實は努めて正確なる文書に據る其の文書は藩主の手書諸記録を 首とし廣く本藩に關係ある公卿諸侯及び本藩士民の保存せし書類を蒐 集網羅し又旁他藩士各家の書をも取せり而して書類の残闕備らざる 所は或は遺老の說話に因りて之を補修す

一 參考書類中雑記或は後年の追記に係るものには或は事實の錯誤を 交へ真偽雑株せるものなきに非ず然れども一二訛誤を混ずる爲めに其 の全書を抹殺すべきに非ず故に此等の書に就いては其の信憑すべきも のを取り疑はしきを棄っ敢て自家の好悪を挟むに非ず

一 諸文書は凡べて原文に從ひ句も一字を增損せず但缺字撞頭等は必 すしも舊に襲らず且意義の溜晦或は訛誤股字の疑あるものは傍に「本ノマ、」と附記し略語・名等は標註を加ふ 一 人名は官職氏名通稱を記し或は氏名の下に通稱を註し或は単に實 名及び其の氏を記し必ずしも定例を設けず史料の體唯通覽に便ならん ことを要するのみ

一 外國の名稱は便宜當時の稱呼或は略稱に從ふ例へば北亞米利加合 衆國を單に米國と稱し或は魯國蘭國米艦魯艦の略字に從ふ類是なり 一 朝廷幕府其の他諸藩の事は唯本藩の事蹟に關係あるものを記する のみ故に前後の情勢に因り詳略一ならず是れ固より全備を本書に求む べきに非ざればなり、

一 幕府の世、他姓にして松平を稱するもの則ち毛利嶋津の如きは其 の當時の稱呼に從ひ皆松本と書し其の下に本氏を証す

緒言

水戸義公全集は、徳川光圀卿の漢詩文、和歌和文等を收錄したもので、すでに成書として存し、その一部は、かつて 刊行されたものもあるが、多くは未刊のもので世に知られていないものである。ことに書簡などは當時控えとしたもの も存してはいるが、他の多くは各地に散在しており、これらを多くの人の協力を得て蒐集しつづけ、さらに古來折にふ れて探録されているものをも加えて一應の纏めをつけた。しかしなお盡しえない憾みもあるので、他日にその補いをつ けるつもりである。 

本書はつとめて原文の形態を忠實に傳えることとし、したがって註釋は原則としてほどこさず、ただ便宜上、句讀點、返り點を加えることとした。 「世に義公の著作として傳えられるものには疑わしいものがある。たとえば、義公命令、あるいは明君家訓、源義公樣 奪慮、水戶宰相光圀卿示家臣條令などの名でよばれている訓戒書で、すでにその註釋書も出ている。また「苦は楽のたね」を首句とする訓言などもある。その他和歌にも「みればただ何の苦もなき水鳥のあしにひまなきわが思ひかな」 をはじめその數は相當にのぼり、書簡などにも、その內容の疑わしいものが存している。 

これらは義公の名聲が高くなるにつれて、事績などにみられるように、他のものがまぎれ、あるいは假託されたもの で、本集には探らぬこととした。

義公の生誕三百年を迎えた昭和三年には、別格官幣社常磐神社で莊嚴な祭典があり、各方面でもそれ ぞれ記念行事が催され、また大日本史の全文も新たに活字に附された。しかし、その他の義公の著作の 中には世に知られないものも多くあり、その人となりの核心にふれ得ないうらみがあった。

ここで、これらの刊行を志し、資料の編集に着手し、廣く斷簡零墨をも求め、十年餘の歲月を費して、 ようやく一部印刷の緒についたのであったが、不幸戰災にあって、その紙型や原本の一部を失った。し かし、稿本は幸いに燒失を免れたので、これにさらに新しい資料を補足し、疑わしいものを除き、異本 との校合を加え、さらに句讀點・返り點を施し、ここに宿願がかなって刊行をみるに至ったのはよろこ びに堪えない。これによってなんらか世に禅補するところがあれば幸いである。
昭和四十四年三月 日　水府明德會會長