中国・朝鮮の史籍における日本史料集成等歴史書送っていただきました。残念ながら揃いというわけにはいきませんでしたが、ありがとうございました。
日本と中国・朝鮮との間には、古代から現代にいたるまで、政治・経済・文化など各般の事象にわたって密接な関係が存していたことはいうまでもない。そして過去において 事件が起ったが、今後アジア各国、特に三国間の相互理解が促進されるためにも、各国間の交流の歴史を知らねばな らぬ。すでに、日・中・朝三国やアジア各国では、相互交流に関する資料の蒐集や研究が行なわれ、その業績が積み かさねられてきた。
日本でも、これまでに中国・朝鮮との交流の史料を集めたり、それらにもとづく日本人の対中国観・対朝鮮観を示 す書物や論説が著作されてきた。たとえば、室町時代の瑞溪周鳳の「善隣國寶記」や著者不詳の「續善隣國寶記」、 「續善隣國寶外記」、江戸時代のいわゆる唐船風説書を集めた「華夷變態」、松下見林の「異稱日本傳」、さらに江戸幕 府編纂の外交史料集である「通航一覧」「通航一覧續輯」、幕末に伊藤松の編篇した「鄰交徴書」等がそれである。 一方、中国・朝鮮側からも日本に関する知見を集めたり、日本との交流の事実をまとめたりすることが大いに行な われた。中国では、古代以来の日本に関する知識が、「三國志」以下の正史にまとめられており、清初の鄭舞功の 「日本一鑑」や清末の黄違憲の「日本國志」など数多くの研究書が出された。朝鮮では、すでに十五世紀に申叔舟が日本・琉球諸国に関する国情や通交の事実をまとめた「海東諸國紀」を作っている。また十八世紀には、朝鮮の通信 使の情報・紀行類を集めた「海行掲載」がまとめられた。
日本の学界では、これら過去の研究や史料の整理をふまえて、邪馬台国や広開土王神、また遣唐使や日宋貿易、元 念、勘合符貿易、倭寇、豊臣秀吉の文禄・慶長の役などを中心に、日本と中国・朝鮮の相互交流に関する研究が進められてきた。基本的史料の整理としては、岩波文庫の和田清・石原道博両博士の労作「魏志倭人傳・後漢書倭侮オ 書倭國傳・隋書倭國傳」と「旧唐書倭国日本傳・宋史日本傳・元史日本傳」の訳註があり、また和田久徳教授。内田 晶子両氏の労作「明実録の沖縄史料」がまとめられた。
これらの研究をさらに深化させるためには基本史料に関する研究が大事な仕事であることに着目し、かねてより、 社会文化史学会の明清史研究グループ、朝鮮史研究グループなどでは、史料の蒐集・整理に当ってきた。たまたま、畏友和歌森太郎博士からこの種の仕事が重要であり、日本史学界としても強く要望されるので、現代版異称日本伝が 作られないものだろうかとの示唆をうけた。そこで、この仕事を組織的に進行させるために、日本史料集成編纂会を 発足させた。
編集会は、明実録・清実録・李朝実録及び正史の四班に分かれ、それぞれ、栗林宣夫・野口鐵郎・楢木野宣・岡本 敬二・有井智徳・長瀬守及び大川富士夫の諸氏をその責任者として、相互に連絡をとりつつ仕事を進めた。
この仕事の成果が出版されるにあたって、関係者諸氏の真摯な研究心とたゆまざる努力に対して深い敬意を表する とともに、紹介の労をとられた和歌森博士、国書刊行会の佐藤今朝夫氏、さらに学界知友の親情と援助に感謝の念を 捧げるものである。