今回は、埼玉県川越市にて「家の中を整理していたら、何やら古い本が出てきたので買い取ってほしい」とのことでご依頼を受け、ご希望の日時をお伺いし、出張買取に行ってまいりました。
こちらがお客様よりお売りいただきました、「古辞書音義集成」です。きれいな状態が保たれており、大事に保管されていたようです。古本買取ブックセンターでは、このようなシリーズものも対応可能です。また、古本のみならず巻物や古地図なども承っております。お家の中で眠っている古本や、処分に困っている大量の本などがございましたら、ご相談ください。
この度は、古本買取ブックセンターをご利用いただきまして誠にありがとうございました。
上古以来、本邦の学術は、大陸から渡来した漢籍や仏典を解読し、その内容を受入れることによって推進され て来た。その際、原典に存する漢字・漢語のよみ方や意味を正しく知ることは、第一に必要な事柄であるが、既 に漢土においても、訓話注釈の学が発達し、古来多数の辞書や注釈書が作られて来た。それらの中で、特定の典 籍につき、その中から字句を抄出してその発音・意義を注した書を「音義」と称している。辞書や音義は、夙く から我が国にも伝えられたが、奈良時代末ごろからは、漢土の辞書や音義を基とし、或いは注を簡 は和訓を加えて、改編・述作が行われるようになった。それらの中、書名のみ伝わって亡びたもの、他書の中に。 文としてその片鱗を窺い得るのみのものも多いが、また、今日まで伝存してその内容に接し得るものも趣くない。
本邦撰述の古辞書・音義類は、漢字・漢文の解釈研究の苦心経営の跡を物語るものであり、日本仏教史、日本 漢文学、国語史などの貴重な研究資料であり、又、大陸では夙くに亡びた古書を豊富に引用している点で、古代 中国の訓話学にとっても重要な文献である。
今回、奈良時代以来の古辞書音義類の古写本十点を選び、幸いに所蔵者各位の御允許を得て、影印本として刊 行することになった。すぐれた複製技術によって、原本の内容を出来る限り忠実に鮮明な影印を行い、各篇ごと に解題・索引を付して、利用上の便を計り、手頃な価額によって、広く学界に提供しようとするものである。本 集成に含まれるものには、或いは近時初めて発見された古写本あり、或いは名のみ著しくて未だ影印本の刊行さ れなかった本あり、或いは戦前影印本の刊行はあったが、現在殆ど入手不可能の本があって、必ずや学界の要望 に応え、その進運に寄与するであろうことを信ずるものである。
一九七八年三月 築島裕
主編=東京大学教授 築島 裕
編集委員=広島大学教授 小林芳規・大阪外国語大学教授 吉田金彦
国語研究のために一
遠 藤 嘉基 このたび築島博士の企画で、「古辞書音義集成」(解題・索引つき)が刊行されることになったことに、この道の 研究に携わる者の一人として、心から感謝の意を表したい。 いささか私事に触れて恐縮だが、内容見本の書目を見て懐かしかったのは、東大研究室や来迎院の蔵書を除けば、 影印本としては初めてという、醍醐寺三宝院の「妙法蓮華経釈文」(三宝院には、この外にも秀れた音義ものがある) はもちろんのこと、そのほとんどが、戦争の波のきびしかった昭和十八・十九年のあたりに、個人で調査したと きの資料の一つだ、ということである。もっとも、これらの資料の中には、影印本あるいは油印本として、他の 方々によって戦前・戦後に刊行されたものがある。しかし、それらのほとんどは、今日の図書館にも無いのが多 い。したがって、一般の方の研究のうえの不便さはいうまでもないこと、そのために大学で講議をするにあたっ ても、自分の家から持ちは こばなければならない、というのが現状である。そういうことを思い合わせると、少 なくとも大学の図書館や研究室にはぜひ備えておいてほしい、と願うこと切である。
さいごに、影印本のことについて触れておこう。影印本といっても、必ずしも原本を忠実に写しているとはい えない、そういう場合があるからである。このことは、影印にあたっての技術の巧拙が影響するわけだが、研究 者にとっては、それが研究の結果につながることがある。そのことを、最近の体験から痛感してい けに、各資料の解題や索引についての業績もさることながら、むしろ研究の基本となるところの、資料の確実性という点 に期待して、このたびの「古辞書音義集成」を推薦する次第である。
(京都大学名誉教授)
推薦のことば
外国語を学ぶ場合、辞書と云うものは必要欠くべからざるものである。また自分の国の古い文を読む場合でも 正確に理解するためには辞書にたよらなければならない。こういう辞書類は中国では早くから編集されており、例えば宋版一切経には各函ごとに一帖の音義が添えられている。 「日本に仏教が伝えられて以後、経典や漢学書の解釈のために、そこに記されている難解な字句の正しい意味をつ けたものが作りはじめられた。そういう種類の書籍の殆んどは近畿地方の諸大寺に所蔵されて、現在まで保存さ れてきたものが多い。
今回の「古辞書音義集成」の刊行に関与されている築島裕・小林芳規両教授は十数年来の私の知己であり、醍 醐寺・石山寺・東寺などの宝蔵調査に参加してもらった人達である。これらの人達の熱心な学問的態度には敬服 すべきものがあり、慎重な調査の結果の一つとここに刊行されることになったのであると思う。
これらの書は専門的なものであり、多くの人達には耳新らしいものであるかも知れない。然し日本人のつみあ げてきた学問の歴史を垣間みるためには、手にとってみたいと思う書籍であろう。その忠実な複製本が出版され ると云うことは専門外の私にとっても、大きい興味をもって期待している次第である。
(嵯峨美術短期大学長)
学 界 待望の書
松 村明
奈良時代以来、日本で編述された古辞書・音義の類はきわめて多いが、これらの辞書の歴史的な展開のあとは、 そのまま国語史の中で、言語生活史の一中心をなしているといえる。また、古代の辞書や音義の古写本に見られ る漢字の字音や和訓は、国語の語彙史・音韻史などの基本的な研究資料とすることがで しかし、 写本の類は、貴重書として秘蔵されているものが多く、一般の研究者には原本を閲覧調査することがなかなか困 難である。是非複製本を座右に備えて研究資料としたいところであるが、現状を見ると、まだ内容の公刊されて いないものが意外に多い。また、戦前に少 行された影印本の類も、 今日ではほとんどが入手不可になってしまっている。今回、古典研究会で企画した「古辞書音義集成」は、鮮明な印刷によって、すぐれた本文を公刊 しようとしており、正に学界の渇をいやすものである。付載の解説や索引とともに、国語学研究者に寄与すると ころが多大であり、心から推薦する次第である。
(東京大学名誉教授)